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ダーウィンの悪夢、断章

大きな水の上を飛行機が飛んでくる。
アフリカの簡素な空港。管制官は窓を上り下りする羽虫を殺すのに必死だ。彼は受話器を掴む。「管制室です」相手はわめいている。「いえ、管制室です。オフィスじゃありません」彼は電話を叩き切って再び虫を追い始める。

飛行機を見る人がいる。
何を運んでいるのか。「何も。空っぽで飛んできて、魚を積んで帰る」 巨大なロシア製の貨物機が重々しく降りてくる。

ヴィクトリア湖は海のように大きい。ムワンザの港には小舟が連なり、沢山の魚が水揚げされる。舳先には「JESUS」。魚は「ナイルバーチ」。歩き回る人の間に犬が何頭もごろ寝している。このコントラストは変じゃないかと思うほどだ。空は染めたように青く、土の色までが鮮やかだ。人々の丸い額は濃い褐色に光っている。水産業の町。ヴィクトリア湖から揚がってくるナイルバーチに町の経済は依存している。

電子楽器の演奏に合わせ、「タンザニア、タンザニア」と歌手がうたう。貨物便のパイロットたちは酒を飲み、陽気になって若い女を膝に乗せた。女たちは魚のように細くてつやがあり、美しい。エリザは歌手を真似て歌う。彼女の値段は10ドル。ここでは黒人も白人もみなブロークンな英語で話す。

木の棒を義足に、松葉杖で歩き回る子供がいる。かつてストリート・チルドレンの一員だった年かさの少年は、啓蒙用の紙芝居を披露しながらその問題を話した。喫煙。路上生活。ケンカ。売春。そんなものが描かれていた。HIVが年齢を問わず広がっているという。

「ずいぶん魚を積んでいたんだな」「ああ、重くなりすぎたんだ」
空港近くの草地に飛行機の頭が転がっているが、それはいつの事故のものなのか判然としない。

ラファエルが夜警の仕事につけたのは、前任者がナタでめった切りになって死んだためだった。1ドルで水産会社の警備をする。「敷地内に入るまでは、撃っちゃだめだ。誰かが敷地内に入ってきたら、勇気を出して待つ。そいつがタイヤを外し始めたりしたら撃つんだ」手には弓と矢。「毒が塗ってある。少しでも傷を負えば、必ず死ぬよ」とほほえむ。

「あれを撮らないで」エンジンをかけるのに苦労しているボロいトラックがいた。「魚の骨を運んでいます。食べる人がいるので」「魚のアラです。おい!どうなってるんだ」
おろした魚の切り身は、値段が高いので地元民は買わない。欧州と日本に輸出する。頭のついた魚の骨は集積場に運ばれ、そこら中に作られたかまどで1日中揚げられる。火と煙は絶えることがない。油で真っ黒になった男の足がはくサンダルさえ、魚のフライみたいにパリパリになっている。

EUの人が来た。たぶん唯一の、なめらかな英語を話す登場人物だ。町の水産業はEUの求める水準に達している。EUのおかげもあって産業は発達している。通りの騒音が喧しいテラスで、明るい雰囲気の記者会見が行なわれた。

水辺で食事の支度をしていた子供ら一同は、分配の量を巡ってつかみ合いになった。熱い米の入った小さな鍋に一斉に手が伸び、略奪されて空になる。「量が少ないんだ」。テレビではタンザニアの食料危機が報じられているが、政府はそれを否定しているという。

ラファエルは元兵士で、戦争にも行った。いい給料をもらいたければ軍隊が一番だ。しかし戦争でも起こらない限り、元兵士が軍に戻るのはたやすくない。国民は戦争を望むかもしれない、と彼は話した。

アフリカに武器の輸出がされているという記事を書いた地元の記者は、外国があえてアフリカの問題を放置していると言い立てる。何かがが起きるのを待って食料や医薬品支援を行なうためだ。そこにはうまみのある商売があるからだと。彼の背後で雷鳴が轟き、巨大な平原の上に溜まった雲からなだれるような雨が降ってきた。

エリザは死んだ。客に殺されてしまったのだ。

パイロットは言う。ある時アフリカに大きな荷物を運んだ。戦車のように大きな荷物だった。会社が承知したのだろう。返りにはぶどうを積んで戻った。仲間は「クリスマスにアフリカの子供は戦車をもらい、ヨーロッパの子供はぶどうをもらうんだ」と冗談を言った。「俺だって世界中の子供が幸せになればと思う。でもどうしたらいいのか」「英語では言えない。言葉が無いんだよ」。

飛行機を見る人がいる。
雷鳴に驚いて、女は振り向く。けれどその場を離れず、滑走路を見つめ続けている。やがて真っ白いロシアの貨物機が、重たそうに離陸していった。機体が湖の上に逆さまになって写っている。 「パイロットたち」女は笑う。そしてうつむく。

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NHK・BS1で見たドキュメンタリー作品「ダーウィンの悪夢」。2004年、オーストリア・ベルギー・フランス作品。2時間番組のうち2/3ぐらいを鑑賞しています。

私は人間社会で発生する出来事に興味がありますが、政治的構造に対する興味は欠落しています。ドキュメンタリーには言いたいことがついてくる。それは意図に沿っておかれている。しかし、それも含めてあらゆる光景は私の脳内でバラバラになり、ただのアミノ酸となって吸収されてしまうのです。鮮やかな色合い、人の皮膚、飛行機の頭、折り重なった魚の頭。米を頬張る子供の顔。印象ばかりをむさぼり食って、そこから何の解釈も、情緒も引き出さない。そんな昆虫のような反応が私にはあるのです。何を見たのか?といつも思い返す。あらゆる用語を使わずに、それを素手で組み立て直せ。均すな。笑うな。納得するな。自分のものにするな。そう念じつつ無駄な咀嚼を続け、今宵も午前4時でございます。毒を飲んだようにシビレる番組でした。

※上記はうろ覚えによる番組の感想であり、時系列・細かい内容に食い違いが発生している可能性があります。

| いろいろ | 03:57 | comments(2) | trackbacks(0) | TOP↑

COMMENT

テレビでやってたんですか!
ダーウィンの悪夢、山形映画祭ですごいドキュメンタリーがある、と話題になってすごい注目していたんですが、テレビでやっていたんですか!見逃した!くやしい!てっきり映画館でかかるものだと思ってたのに。いいなあ。

| にゅく | 2006/03/09 23:45 | URL | ≫ EDIT

これはいいすよ
そんなに評判の作品だったのか!
テレビに出たということはもう映画館でやらないのかなぁ。あれは大きい画面で見たら素晴らしいと思う。構図のおもしろさ美しさ、「いい絵づら」をよく追求している感じなんですよ。でナレーション一切なし、人物紹介が字幕で出るぐらい。状況の説明が何も無い。
すごくスタイリッシュな作品でしたよ。あと景色がすごい。

| ペり公 | 2006/03/10 00:27 | URL | ≫ EDIT















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