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最後のクリスマス

寒くて目がさめた。見回すと壁に、人一人通れるくらいの太さを持つ煙突らしきものが取り付けられている。外の冷気がそこから入ってきていた。煙突の直下から私の枕元まで泥の靴跡が続いており、かすかに獣臭い。「やられた…」今年もやられた。あいつだ。だけどなぜ私の家なんだ。ここには子どもなんかいないのに。
気がつけば外が騒がしい。チャイムにドアを開けると中年の男が警察手帳を突き出した。「もしかしてお宅も?」私の顔を見ると刑事は云った。「今年はわからんな、軒並みやられてるよ。米軍は何をしてるんだか…」云いざま白手袋で口元を撫でる。「そんなことを云うのも情けない話だけどね」

テレビでは石原都知事の緊急会見を放送中だ。「今はねえ昔みたいにのんびりした時代じゃないんだ。童話の世界じゃないんだよ。これ見たらわかるでしょう。国が動かなければ都が独自の判断でやりますよ。そのための準備をしているところだ」。平日見かけない顔のアナがNORADのレーダー画像を繰り返し紹介し、コメンテーターは「9.11」という言葉を何度も織り交ぜて解説している。
私はゆううつな気分で座り込んだ。部屋の空気が一層寒い。毛布を引き寄せると、その下から何か光るものが転がり出て来た。…箱だ。安っぽいメタリック・グリーンの包装紙に真っ赤なリボン。いやに軽い。思い切って開けると、中には小さなカードが一枚入っているきりである。Merry Christmasという金色の草書体。手を振るサンタの絵の下にこんな言葉が書かれていた。

おおきくなりましたね。おぼえていますか。サンタのおじさんです。
前に会ったときは、まだちいさな子どもでしたね。
にんじんがキライでおかあさんを困らせていたでしょう。
やっと食べられるようになったのは「サンタさんが来てくれないよ」と言われたから。
るり色やあかね色のランプのかがやき、あのすてきな夜をおぼえておいてください。
物にあふれた世にあって、形のない思い出こそ時に大事なのですから。
はかなくて頼りないのが人の生。生きることは痛く、しかし輝かしいものです。
無くしたものを数えるよりも、これから得るものを楽しみに歩んでください。
いつでもわたしは、元・子どもたちを見守っていますよ。

 ○○ちゃんへ。サンタのおじさんより

サンタクロース…。
サンタクロースは誰だったのだろう。子どものことを何でも知っていて、彼らのささやかな願いを叶えてくれる謎の老人。クリスマスとはそんな存在を許してくれる魔法の一夜だった。けれどキリストを信じない者にとって、輝くランプや大きなケーキの魅力だけでクリスマスの魔法を保っておくことは難しい。確かにここは童話の世界ではない。魔法はその力を発しない。そんな世の中でサンタは一体何を運んでいるのだろう。それも私のようにひねくれた大人の元へ。

テレビがアラームを発した。

「速報です。先程ホワイトハウスで緊急記者発表が行われ…米軍がサンタの撃墜を発表…」
「太平洋上にてソリらしきものの残骸を発見したと…映像、映像出ますか?」
「えー、あっ今新しい情報が入りました。先程お伝えしたソリらしき残骸の近くで…」

鼻をすする音にふり返ると、いつの間にか刑事と鑑識が後ろに立って涙を拭っていた。刑事は私の手からサンタのカードを取り、読み始めると一層の勢いで涙を流し始めた。「縦読み…」

| いろいろ | 03:25 | comments(0) | trackbacks(0) | TOP↑

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